前回は腸内細菌叢と歯周病の関係についての研究がされていることについてお話ししました。
今回は腸内細菌叢の研究から新たに得られた知見、「肥満と歯周病の関係」についてお話ししたいと思います。
肥満と腸内細菌叢
肥満と歯周病の関係をお話しする前に、まず、肥満と腸内細菌叢の関係についてお話しします。
この関係は2006年に発表された論文で注目されることとなりました。
この論文ではまず
- ① 普通のエサを与えて育てたマウス
- ② 高脂肪食を与えて育てた肥満マウス
とタイプの育ち方の違うマウスを用意します。
それぞれの腸内細菌叢を採取し、無菌マウス(無菌状態で育てられ、体内にも菌がいない状態)の腸に移植しました。
これは、つまり、無菌マウスの腸内に①と②のマウスの腸内細菌叢が再現されるということです。
このマウスたちを普通のエサで飼育していきます。
同じエサを食べているのに、肥満マウスの腸内細菌叢を移植したマウスが太っていきました。
つまり、腸内細菌叢が肥満に強くかかわっていることが証明されました。
肥満の腸内細菌叢と歯周病
肥満と腸内細菌叢の研究をうけ、別の研究が行われました。
- ① 普通のエサを与えて育てたマウス
- ② 高脂肪食を与えて育てた肥満マウス
を用意します。
それぞれの腸内細菌叢を除菌マウス(抗生物質を一定期間投与し、腸内細菌をできるだけ減らしたマウス)の腸内に移植し、除菌マウスの腸内にそれぞれの腸内細菌叢を再現させます。
その後、マウスの歯の根元を糸で結び歯茎を圧迫し、炎症を引き起こします。
歯茎の炎症、つまり、歯周病にかかった状態です。
すると、肥満マウス②の腸内細菌叢をもつマウスの方が、歯周病が重症化したそうです。
つまり、「肥満になりやすい腸内細菌叢の持ち主は歯周病が重症化しやすい」ことを意味しています。
歯周病悪化の原因
歯周病が重症化したマウスと重症化しなかったマウスの違いを調べたそうです。
血液中に含まれる代謝物の一つに「尿酸」があります。
痛風や高尿酸血症などの原因となります。
この尿酸は高濃度になると炎症を促進する作用があります。
歯周病が重症化したマウスに血液検査を行ったところ、尿酸が高いことが分かったそうです。
この時マウスの腸内細菌叢の変化を見てみると尿酸を多く作らせる菌が増え、尿酸を減らす働きをする菌が減っていたそうです。
これらのことから、
- 「肥満になりやすい腸内細菌叢では、尿酸の生産が増える」
- 「尿酸の生産が増えると、炎症が促進され、歯周病が重症化しやすい」
という関係が分かりました。
また、尿酸の生産を抑える薬を肥満マウスに与えたところ、歯周病の重症化が抑えられたそうです。
健全な腸内細菌叢を保つためにできること
- ・健康なお口を維持する
歯周病のお口からは多量の歯周病菌が体内に入ってしまいます。
セルフケアはもちろん重要ですが、定期的に歯科医院のクリーニングも重要です。
定期健診に通うよう習慣づけてください。
- ・食生活
子供のころに健全な腸内細菌叢が作られていても、脂肪の多い食事や糖質方の食事ばかり行っていると腸内細菌叢のバランスが崩れることが分かっています。
-
- 赤みの肉より魚
- 根菜類など繊維質の豊富な食材
- 発酵食品
つまり、伝統的な日本食が腸内細菌叢には良いということです。
まとめ
「腸内細菌叢に良いもの」は明らかになっていません。
しかし、悪いものは判明しています。
「悪いものを避ける」ことが健康な腸内細菌叢を保つことにつながります。
口腔細菌叢と腸内細菌叢は影響しあっています。
お口を健康にすることが、重要なことと意識し、普段のセルフケアを行ってみてください。
また、定期健診も忘れないよう通うよう心掛けていただければと思います。