以前歯周病のお話の時、歯周病が低出生体重児に関係あるとお話ししました。
お口の中の状況が妊娠に深く関係しています。
本日は妊婦さんとお口の中の関係についてお話ししたいと思います。
妊娠中のつわり
妊娠初期から始まるつわりですが、人によってはなにも感じなかったり、ひどい場合はお水も受け付けられないということもあります。
また症状を感じるタイミングも「臭いをかぐとダメ」「満腹だとダメ」「空腹だとダメ」など人によって様々です。
つわり期間中少しでもすごしやすいよう試行錯誤されていると思います。
- ・気持ち悪くなってしまうので歯磨きができない
- ・お腹がすく(満腹になる)と気持ち悪くなるためダラダラ少しずつ食べ続ける
- ・特定の物しか食べられない
過ごしやすいよう工夫されていても気持ち悪く、戻してしまう方ももちろんいらっしゃいます。
嘔吐は胃酸により、お口の中が酸性に傾きます。
お口の中が酸性に傾くと歯の脱灰(詳しくはこちらをご覧ください)が始まります。
つわり中の口腔内環境は虫歯菌、歯周病菌が好む環境といえます。
- ・歯磨きができない
プラークを除去することができなくなるため虫歯、歯周病のリスクが高くなります。
体調のいい時はしっかり磨くようにしましょう。
また、子供用の小さい歯ブラシを使うと不快感が軽減するかもしれません。
- ・ダラダラ食べ
お食事のたび、口の中は酸性に傾きます。
歯は酸に弱く、脱灰が行われてしまいます。
虫歯のリスクが上がります
お食事の後はなるべく歯磨きを行いましょう。
難しい場合はしっかりお口をゆすぐよう気を付けてください。
- ・繰り返す嘔吐
胃酸によって口の中のpHは下がり酸性に傾きます。
嘔吐後歯磨きは難しいかと思います。
しっかりゆすぐだけでも違います。
無理のない範囲で行えるとよいと思います。
このように「つわり」は虫歯菌や歯周病菌が好む環境を作ってしまいます。
しかしつわり以外にお口の中の環境を変化させてしまうのがホルモンの変化です。
ホルモンの変化
妊娠中はエストロゲン(卵胞ホルモン)、プロゲステロン(黄体ホルモン)という女性ホルモンが増加します。
このホルモンの両方がそれぞれ違う働きで歯周病を悪化させてしまいます。
- ・エストロゲン(卵胞ホルモン)
歯周病菌の増殖を促します。
- プロゲステロン(黄体ホルモン)
プロスタグランジンという物質を増加させます。
プロスタグランジンは「痛み、熱、腫れ」などの症状つまり炎症を引き起こします。
炎症の元であるプロスタグランジンが増加されることで炎症が起きやすい状態になっているのです。
プロゲステロンは妊娠中期から後期にかけて増加し、月経時の10~30倍になると言われています。
そのため、この期間は(妊娠性)歯肉炎が多くなるのです。
妊娠中に親知らず付近の歯茎が腫れたり痛みが出やすいのもこれが理由です。
しかし、プラークがない(歯周病菌の少ない)綺麗なお口の中では基本的には炎症は起こらないか、起こったとしても軽度な歯肉炎です。
歯周病と低出生体重児
歯周病になると低出生体重児や早産のリスクが上がるとお話しましたが、これもプロスタグランジンが関係しています。
プロスタグランジンには様々な働きがあるのですがその働きの中に「筋肉(子宮筋)を収縮させる」というものがあります。
実際、陣痛誘発や陣痛促進のために投与するお薬として使用されます。
つまり、歯周病が悪化すればするほどプロスタグランジンが増えていきだと、子宮筋の収縮を引き起こし早産になるリスクが上がってしまうのです。
歯周病がある方の早産のリスクはない人に比べ5~7倍と言われています。
早産のその他の原因であるタバコやアルコール、高齢出産よりもはるかに高い数値です。
また、お口の中で増殖した歯周病菌が血液に乗って移動し子宮や胎盤に感染するとお腹の赤ちゃんの成長不足がおこると考えられ、日々研究されています。
まとめ
妊娠中に歯肉炎、歯周病にかかった場合、お腹の赤ちゃんも苦しめているかもしれません。
歯周病にならないよう、妊娠中は特に注意が必要です。
歯周病は治療を行わないと治らない病気です。
少しでも異変を感じたら歯科を受診することをおすすめします。
また、産後もしっかりケアを行わないと再発の恐れがあります。
さらにお父さんお母さんの唾液から、赤ちゃんに虫歯菌、歯周病菌は移ってしまいます。
健康な赤ちゃんの出産のため、そして生まれてきた赤ちゃんへの感染予防として、歯科を受診してみるのはいかがでしょう?