「医学の父」と呼ばれるヒポクラテスは、「細菌」という存在も分かっていない紀元前400年頃に、患者の歯石をとるよう弟子に指導していました。
「歯石をとらないと全身の健康が回復しない」と弟子に教え、歯石をとる道具も開発していたそうです。
現在、医学の進歩により、細菌の存在がわかり、免疫機能についても多くのことが分かってきたことで、このヒポクラテスの教えが正しかったということが科学的に証明されてきています。
本日は歯周病の原因菌の一つポルフィロモナスジンジバリス菌についてお話ししたいと思います。
目次
歯周病のおさらい
歯茎付近の歯の汚れ(プラーク)が原因で歯周組織が炎症を起こしている状態をいいます。
歯の汚れ(プラーク)のなかには多量の細菌が存在し、その中には毒素を作るものがいます。
その毒素は歯茎を腫らせ、また骨を溶かしたりします。
最初は歯茎の炎症から始まり、進行していくと口臭がしたり、酷くなると歯を支える骨を溶かして最終的には歯が抜けてしまう病気です。
サイレントディジーズとも呼ばれ、症状があまり無く進行していくため、気づくのが遅れると重症化していることもあります。
・ポルフィロモナス・ジンジバリス菌
Pg菌は酸素のある環境では生息できない菌で、さらに糖を栄養源として利用できない菌になります。
代わりにタンパク質を分解して栄養源としています。
そのため、菌体表面や菌体外にタンパク質を分解する酵素(ジンジパイン)を分泌します。
また、菌体周囲に線毛という歯周組織への定着に重要な器官を持っています。
タンパク分解酵素であるジンジパインはタンパク質を消化する以外に、硫化水素(口臭の原因の一つ)を作り周りの細胞を殺したり、免疫物質を破壊し免疫を抑制するなどの役割があります。
免疫を抑制されると周囲の菌も免疫に退治される心配がなくなるため、活動が活発になります。
少数で無害菌を病原菌に転換することができる菌のことをキーストーン病原体と呼ぶのですが、Pg菌は歯周病のキーストーン病原体になります。
タンパク分解酵素で赤血球を分解すると鉄分が出てきます。
この鉄分を得るとより菌は活発に動き、歯周ポケットを深くし歯周組織の急激な破壊に繋がります。
ポルフィロモナスジンジバリス菌と全身の関り
・認知症
歯周病が進行し出血した血管から体内に侵入し、脳で悪さをすることで認知症のリスクが上がります。(詳しくはこちら)
・動脈硬化
心臓を取り巻いている動脈の血管内プラークからも見つかりました。
血管内プラークとは血管の内側にできるコブのようなもので、歯の汚れのプラークとは別のものになります。
この血管内プラークは白血球の死骸や悪玉コレステロールにより出来るのですが、血管内に侵入したPg菌がこれらとドロドロに絡み合い、血管に張り付きます。
この血管内プラークが大きくなり血管が狭く、血液の通り道が狭くなると動脈硬化が始まります。
・脳梗塞、心筋梗塞
血管内プラークが剝がれ、脳血管を詰まらせると脳梗塞、心臓の血管を詰まらせると心筋梗塞となります。
・早産
血管に侵入したPg菌が子宮内に達すると免疫細胞が過剰に反応し、子宮を収縮させるホルモンが急激に増えるため、早産を招く恐れがあります。
・糖尿病
炎症が進み炎症性物質が増えると、血糖を下げるインスリンの働きが悪くなり高血糖になります。
まとめ
Pg菌は単体では強い細菌ではないのですが、歯周病菌の中で最も病原性の高い菌になります。
また、全身への関係も深いため、注意が必要です。
もし歯周ポケットの中に黒い歯石が見られるときは要注意です。
黒い歯石には血中の鉄分が含まれています。
つまり、「ポケットの内部で出血があった」ということが分かります。
定期検診でしっかりチェック、クリーニングを行い、口だけではなく体の健康も手に入れるのはいかがでしょう?