歯科治療で注意したい全身の病気のひとつに「骨粗しょう症」があります。
近年、専門学会において「骨粗しょう症治療をする全ての方に、原則、歯科治療が求められる」という文章が出されました。
骨粗しょう症の治療薬の影響で顎骨壊死を引き起こす可能性があります。
お口の中を健康に保つことがこの顎骨壊死を防ぐために重要であることが分かってきたからです。
本日は骨粗しょう症とお口の関係についてお話ししたいと思います。
骨粗しょう症とは
骨が脆く(骨の密度が低下)なり、骨折しやすい状態のことです。
加齢に伴い誰にでも起こりますが、閉経後の女性に特に多く見られます。
骨粗しょう症を予防するため、栄養や程度な運動が重要です。
しかし、これらに気を付けていても、加齢とともになってしまうのが骨粗しょう症です。
進行した骨粗しょう症患者さんには、治療薬を使用し骨密度の低下を抑え、骨折を防ぐことが重要です。
脆弱(ぜいじゃく)性骨折
骨粗しょう症が原因で起こる骨折のことです。
通常の骨折は強い力がかかり折れ、治療も骨を正しい位置に戻し、安静にすることで治ります。
しかし、脆弱性骨折の場合ちょっとした刺激で折れ、一度骨折すると連鎖し、他の部位の骨折が起こることがあります。
太ももの付け根の骨折が治ったと思ったら反対側が骨折した、ということもしばしば見られます。
「骨折で亡くなる」というイメージをお持ちの方は少ないと思います。
その認識を変えてもらうために整形外科医の先生方が「骨卒中」という言葉を広めています。
太もも周囲の骨が折れると寝たきりになる可能性が高ったり、「5年生存率が50%以下になる」とも言われています。
骨折を予防することはとても重要です。
骨粗しょう症治療薬
- ・①骨が壊れるのを抑える薬
ビスホスホネート製剤、デノスマブ製剤、SERM(サーム)
- ・②骨が作られるのを促す薬
- ・③骨への栄養を補う薬
にわかれます。
近年①②の作用を併せ持つ薬も登場しましたが、使用できる期間に制限があります。
骨粗しょう症の治療薬のなかでも①のビスホスホネート製剤とデノスマブ製剤を使用されている方は「薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)」という病気を引き起こす可能性があります。
薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)
薬剤関連顎骨壊死とは文字通り薬が関連した顎の骨の壊死のことです。
骨の壊死とは、骨に炎症が起きている骨髄炎がさらに進行し骨の一部が死んでしまう状態のことです。
骨粗しょう症治療薬のビスホスホネート製剤とデノスマブ製剤の他に、多発性骨髄腫や悪性腫瘍などの治療薬にもMRONJ のリスクがあります。
〇症状
- ・痛み
- ・歯茎の腫れ
- ・あごの骨が歯茎から露出
- ・顔の皮膚から海が出てくる
等が見られます。
あごの骨で骨壊死が起きやすい理由
- ・口の中には常に多くの細菌が存在。
- ・歯が骨に植立している
歯周病が進行すると、骨のすぐ近くまで歯石や細菌を多く含んだプラークが付くため、骨も感染を起こしやすい
- ・皮膚より薄い歯茎のすぐ下に骨がある
合っていない入れ歯を使用したり、食事時に歯茎を気付つけると、傷によって骨が露出しやすい
- ・歯の中の神経の部屋(歯髄腔)を通って、根の先(骨の中)で炎症、膿が溜まる
お口の中とは、上記のような環境になっているため、他の部位に比べ顎の骨は骨壊死を起こしやすい部位になります。
現に、一昔前は虫歯や歯周病から骨髄炎や骨壊死を引き起こす方もいらっしゃいました。
その後、抗生剤によって骨壊死に至ることはまれとなりましたが、20年程前からまた顎骨壊死をまた目にするようになりました。
その方々は、ビスホスホネート製剤を使用している方々でした。
骨は常に新陳代謝(古い骨は壊され新しい骨が作られる)しています。
ビスホスホネート製剤とデノスマブ製剤はこの骨の新陳代謝を抑え(弱め)、骨が壊れるのを防ぎます。
しかし、感染を起こし本来であれば破壊されるべき骨も破壊されず、壊死に至るのではないかと考えられています。
まとめ
骨粗しょう症にかかっていると、歯周病にかかりやすく、また、重症化しやすい傾向にあります。
また、歯周病によって歯を失うと、噛む能力が低下し、消化吸収の能力も低下します。
その結果骨の形成に必要な栄養が少なくなり、骨粗しょう症を悪化させることがあります。
骨粗しょう症の治療の目的は骨折の予防です。
ビスホスホネート製剤とデノスマブ製剤はとても効果の高いお薬です。
骨折を予防し、生活の質を保つためにも、薬の使用を自己判断で中止しないようお気を付けください。
MRONJのリスクもありますが、顎骨壊死が必ず起こるわけではありません。
また、予防することも可能です。
次回は顎骨壊死の予防についてお話ししたいと思います。