歯周病の治療、メンテナンスを行うと認知症の発症の抑制になることが近年の研究で明らかになってきました。
本日は歯周病と認知症の関係についてお話ししたいと思います。
1.歯周病とは
歯周病菌が引き起こす感染症のことです。
歯周病菌は歯と歯茎の溝(歯周ポケット)や歯茎付近にたまるプラーク(歯垢)に存在します。
歯周病菌がいると、細菌を排除するために免疫細胞が活発になります。
これが歯肉の腫れや出血といった「炎症」として現れます。
歯周病菌は歯周ポケットの中で強い毒素を出します。その毒素により免疫細胞はさらに活発になります。
歯周病菌や免疫細胞の死骸が「膿」となります。
炎症状態が長引くと免疫細胞が歯の支えになっている骨を溶かし始めます。
これは、感染による被害を広げないために、感染の原因になっている歯周組織や歯自体を異物と認識し、異物を排除するために起こります。
歯周病菌の中にPg菌(ポルフィロモナス・ジンジバリス菌)という菌があります。
このPg菌がアルツハイマー型認知症に大きく関与していることが分かりました。
2.認知症とは
認知症とは、様々な原因によって脳の働きが悪くなったり、脳の細胞が死ぬことで様々な障害が起こり、日々の生活に支障をきたす状態です。
障害を受けた脳の部位によって色々な種類があります。
認知症の中で約7割を占めるのが「アルツハイマー型認知症」です。
アルツハイマー型認知症は、脳にアミロイドβ(ベータ)というタンパク質が20年、30年と長い年月をかけて溜まることで脳の細胞を少しずつ減らしていき脳を萎縮させることでおこることが分かっていました。
近年の研究でアルツハイマー型認知症で亡くなった方の脳内から歯周病菌のPg菌が発見されました。
口の中にいるはずの歯周病菌がなぜ脳内にいるのか、これが認知症とどうかかわっているのか、が明らかになりました。
3.歯周病菌の脳への移動
歯周病が進行すると、歯周ポケットは深くなり、深い歯周ポケット内にはPg菌が多くなります。
さらに、歯肉の炎症が強くなると、出血が起こりやすくなります。
Pg菌は歯茎の出血した場所から血管内に入り込みます。
血管内には多くの免疫細胞が存在し、細菌を排除しています。
Pg菌が血管内に侵入すると免疫細胞によって排除されます。
しかし、Pg菌は増殖しているため、数が多すぎて完全に排除することはできません。
排除する際、免疫細胞は過剰に働きすぎてしまい、その結果、菌だけでなく周りの細胞も攻撃してしまいます。
アルツハイマー型認知症の原因であるアミロイドβは免疫細胞が細胞を攻撃することで生成されます。
Pg菌は脳の血管に到達すると血管を通り脳に行くために血管の壁にくっつきます。
免疫細胞は血管の壁についたPg菌を排除のため働きますが、そのとき血管の細胞にも攻撃をしてしまいます。
その際、血管の壁にPg菌・アミロイドβの道を作ってしまいます。
この道を通り脳内にPg菌アミロイドβが蓄積していきます。
つまり
①歯肉の炎症を起こし、血管内に入るための侵入口を作り血管の中へ侵入(Pg菌)
②血管内に入ったPg菌の排除(免疫細胞)
③働きすぎにより周囲細胞を攻撃し、アミロイドβ(アルツハイマー型認知症の原因物質)を生成(免疫細胞)
④脳の血管にくっつき、血管のところで免疫細胞に過剰反応させる(Pg菌)
⑤血管にくっついているPg菌の排除(免疫細胞)
⑥働きすぎにより血管の壁の細胞を攻撃、通り道を作ってしまう(免疫細胞)
このような流れで脳内にPg菌・アミロイドβが溜まっていきます。
4.まとめ
「アルツハイマー型認知症の原因物質であるアミロイドβを脳の中に溜まらないようにする」
これに気を付けていくと、認知症のリスクファクターを少しでも減らすことが出来ます。
では、アミロイドβを作らないようにするためには、
免疫細胞を働かせすぎないこと。
つまり免疫細胞が働きすぎないように、Pg菌を歯肉の出血部分から血管の中に入らないようにすることが重要です。
アルツハイマー型認知症の原因がこれだけというわけではないと思いますが、歯周病の予防を行うことで認知症の予防にも繋がる、ということです。
歯周病は他にも高血圧や糖尿病など全身の健康にも関わっています。
「健康で年をとる」ために、歯周病の治療、定期健診を取り入れるのはいかがでしょう?