前回は「上顎前突」いわゆる「出っ歯」についてお話しました。
「よく見られる嚙み合わせ不良」の第二回目は「下顎前突」についてお話したいと思います。
目次
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1.下顎前突とは
いわゆる「受け口」や「しゃくれ」と呼ばれる状態です。
オーバーバイト(上の前歯と下の前歯の噛みこみの深さのこと)がマイナスだと下の歯が上の歯よりも前に出てきている状態になります。
- ・下の歯が上の歯よりも前にある
- ・下の顎が前に出ているように感じる
- ・食べ物がうまく噛み切れない
- ・発音がしにくい
これらのことが気になっている方は下顎前突の可能性が高いです。
2.下顎前突のタイプ
①骨格性の下顎前突
下顎の骨の過剰な成長や、上顎の骨の不十分な成長によって上下のあごのバランスが崩れると下顎前突になります。
②歯性の下顎前突
上の歯は内側に、下の歯が唇側に倒れることでおこる下顎前突です。顎の大きさは正常です。
③機能性による下顎前突
前歯の干渉により、下の歯が誘導され上の歯より前に出てくることで起こる下顎前突です。
3.原因
①遺伝的要因
上顎の骨の不十分な成長、下顎の骨の過剰な成長によって下顎前突となります。
骨の成長は遺伝的要因が大きく関わっており、中世スペイン王朝のハプスブルク家は、下顎前突の人が多いことで有名です。
②幼少期の悪癖(吸唇癖、頬杖、顎を前に出すしぐさ)
唇を噛んだり、吸う癖を吸唇癖と呼びます。
上唇を吸うことで上の歯には外から押さえつけられるような力がかかり、反対に下顎には前に出るような力がかかることで下顎前突を引き起こします。
③舌の位置
舌は上顎にくっついているのが正しい位置と言われています。
舌の動かし方の癖や、何らかの理由より舌の位置が下がっていると下顎の成長を促すことがあります。
4.将来的に起こりうる弊害
①物が噛みにくい
奥歯の一部しか噛めないため、お食事がしにくくなります。
また、うまくかめないことで胃腸に負担がかかります。
②発音障害
発音、滑舌に大きく影響します。特にサ行、タ行が発音しにくくなります。
発音しにくいことでコミュニケーションに影響するだけでなく、心理面にも影響することもあります。
③見た目のコンプレックス
④下顎の成長により顕著になる下顎の突出感
下顎は思春期の体の成長に伴って急成長します。
本来は上の歯が下顎が成長しすぎないようにストッパーの様な役割を果たします。
しかし反対咬合のとき、上の歯はストッパーとしての役割を果たす事ができないため、下顎はどんどん成長してしまい、下顎前突が酷くなります。
5.治療方法
①小学生の治療
・骨格性の下顎前突の場合
まだ成長段階にある子供では、まず、顎の成長に働きかける治療を行います。
下顎の仮成長の場合は下顎の成長を抑える装置を、上顎の成長が不十分な時は上顎の成長を促す装置を使用します。
・歯性や機能性の下顎前突の場合
歯の裏側に装着する装置や、ワイヤー矯正を利用します。
また、機能性の下顎前突の場合噛む力を利用した装置を使用することもあります。
また、下顎の成長を促してしまうような癖(舌で歯を押す、舌を置く場所)がある時は、その癖を無くす訓練も併用して行います。
②成人の治療
ワイヤー矯正を行います。場合によっては抜歯を行うこともあります。
また、下顎が大きく前に出ているような下顎前突の場合には、顎を引っ込めるために外科手術が必要になります。
6.まとめ
幼少期は歯性や機能性による受け口だとしても、下顎の成長により、骨格性の下顎前突に変化してしまうことはよくあります。
骨格性の下顎前突になると手術が必要になることもあります。
上の顎の成長は10歳くらいで止まるのに対し、下の顎は18歳ごろまで成長します。
そのため幼少期に一度治療をしても骨の成長と共に再発する可能性があります。
しかし、一度治療を行っているのといないのとでは再発したときの治療の難易度は大きく変わります。
また、幼少期に治療を行っておくことで外科手術をしなくても大丈夫になるケースもあります。
お子様の歯並びで気になるところがある時は早めに矯正の先生に診てもらうことを強くお勧めします。