前回は歯科治療を行う際、注意しなくてはいけない病気、お薬があることについて、また、高血圧における歯科治療で注意するべきことについてもお話しました。
本日は「血栓症」についてお話したいと思います。
血栓症とは
血管内に血の塊(血栓)ができます。
血管からはがれた血栓が、血管を塞いでしまうことで起こる病気です。
血管がふさがるとその先の細胞に栄養がいかなくなってしまうため、細胞が壊死してしまいます。
脳や心臓の血管が詰まると脳梗塞や心筋梗塞となり、命にかかわります。
種類
血栓は2種類あり、血栓が作られるメカニズムに違いがあります。
- ・動脈血栓
動脈にできる血栓です。
動脈は血液の流れが速いのですが、血液の粘度と血流の速度のバランスが崩れると血小板が凝集し血栓ができます。
- ・静脈血栓
静脈にできる血栓です。
静脈の血流が遅い時、凝固作用のある赤血球とフィブリンが固まって血栓になります。
血栓症のお薬
血栓症の発症を予防するために「血液をサラサラにするお薬」抗血栓薬を服用します。
動脈血栓の予防には血小板が固まらないようにする「抗血小板薬(バイアスピリン等)」になります。
静脈血栓の予防には赤血球とフィブリンが固まらないようにする「抗凝固薬(ワーファリン)」になります。
また、出来てしまった血栓を溶かすお薬もあります。
これらのお薬は血栓が血管を塞がないように飲み続ける必要があります。
抗血栓薬と歯科
血小板やフィブリンは出血がある時、血管の破れたところに集まり、血を止めます。
血液が固まらないために抗血栓薬を飲むことで、血小板やフィブリンの働きを抑えてしまうため、出血が止まりにくくなってしまいます。
抜歯やインプラントなどの外科治療を受けるときに影響します。
大きな血管を切る、ということはないですが、それでもじわじわと出血が続きます。
普通、歯を抜いたところでガーゼを噛むと15分くらいで血は止まります。
しかし抗血栓薬を飲んでいると30分噛んでいただく必要があります。
安全に歯科治療を行うために
「止血シーネ」という血が止まるまで噛んでもらうマウスピース型の装置があります。
あらかじめお薬を飲んでいることを教えていただけると、この装置を作り止血のための準備をおこなうことができます。
40年以上前は、外科治療を行う際に、抗血栓薬の服用を止めてもらうのが常識でした。
しかし、1998年「血栓が形成された場合8割が死に至る」という論文が発表されると、「治療のために休薬はしない」という考え方が一般的になりました。
休薬が原因で脳梗塞や心筋梗塞を起こしてしまっては元も子もありません。
自己判断での休薬は絶対に行わないでください。
まとめ
抜歯やインプラント術の後になかなか血が止まらないと不安になるかと思います。
その不安を少しでも小さくするため、事前に準備を行います。
内科の先生に現在の血液検査の結果やお薬について相談を行うこともあります。
また、止血のしにくさや、歯を一度に多数抜く場合等、大学病院など口腔外科での治療が望ましい場合もあります。
安心安全に行えるよう、病気、お薬については必ずお伝えください。