腸内細菌叢と歯周病


歯周病が全身の病気と関係することは以前からお話してきました。

本日は腸内細菌叢と歯周病についてお話ししたいと思います。

 

歯周病が関連する全身の病気


  • ・糖尿病
  • ・脳卒中・脳梗塞
  • ・アルツハイマー型認知症
  • ・動脈硬化
  • ・心疾患
  • ・早産・低体重児出産
  • ・関節リウマチ

 


歯周病の全身疾患への作用の仕組み


歯周病が全身疾患への作用の仕組みとして

  • ①歯周病菌そのものが悪さをする。
  • ②炎症によって生み出された物質が悪さをする。

の二つが現在の主要な考え方です。

  • ①歯周病菌そのものが悪さをする。

炎症が起きている歯茎から細菌が入り込み、血流を介して全身に広がっていき、毒素を作りだし、血管や臓器に悪影響を与える、という考えです。

特に歯周病菌の親玉であるポルフィロモナスジンジバリス菌(Pg菌)は歯茎から侵入し、全身をめぐっていく力が強いと考えられています。

  • ②炎症によって生み出された物質が悪さをする。

炎症が起きた歯茎に集まった免疫細胞が細菌をやっつけるときに作られる「炎症性物質」が血流にのり全身に広がり、炎症を引き起こすと考えられています。

 

しかし現在、新しい考えが注目されています。

  • ③歯周病菌が腸に入り悪さをする。

腸にたどり着いた歯周病菌が腸内細菌叢を乱し、全身の病気に悪影響を与えるという考えです。

 


腸内細菌叢とは


腸内細菌叢とは、その人が持つ腸内細菌のパターン、つまり、腸内細菌たちの共同体ともいえます。

人は成長とともに、様々な細菌を体に取り込みます。

だいたい小学生ごろにはその人の腸内細菌叢は完成し、いったん確立すると、普通に生活をするぶんには、劇的に変わらないものといわれています。

腸内細菌叢は、からだの防御反応に深くかかわっています。

人体の免疫の約7割を担う「腸管免疫」や菌がからだの中に無秩序に入らないようにする「バリア機能」を有しています。

 


腸内細菌の乱れ


いったん確立した腸内細菌叢のバランスは、簡単に乱れることはありません。

しかし、長期間抗生剤を服用するとお腹を下します。

これは、抗生剤により腸内細菌叢に乱れが生じたから起こる症状です。

このように、腸内細菌叢が乱れると、腸管免疫やバリア機能が弱まり、さまざまな病気、例えば、糖尿病、動脈硬化、関節リウマチや、アルツハイマー型認知症などにつながります。

虫歯イメージ


唾液と一緒に飲み込んだ菌の行方


唾液に混ざり飲み込まれた細菌は、胃酸で溶けることが分かっています。

しかし、バイオフィルムというベタベタした細菌の集合体になっていると胃酸でも死なない可能性が高いです。

消化酵素に塩酸を入れpH1,3,5,7と酸性~中性の人口胃液に、Pg菌を入れる、という実験を行いました。

バイオフィルム状に培養したPg菌だとpH1でも1%が生きていて、pH3なら70%、pH5ならほぼ100%生存しているとわかっています。

 


腸内細菌叢と歯周病


腸内細菌叢の乱れによって引き起こされる病気は、歯周病が関連する全身の病気と重なっています。

しかし、口腔細菌叢と腸内細菌叢は構成が大きく違うことが分かっています。

飲み込まれた構成の違う口腔内の細菌が、腸に届き、腸内細菌叢のバランスを崩し、腸管免疫やバリア機能を低下させる、という考えに基づき研究が進んでいます。

重度歯周病の患者さんだと、それだけ多くの歯周病菌を飲み込むことが予測されています。

マウスを使った実験では、Pg菌は腸内から検出されることはありませんでした。

つまり、バイオフィルムに包まれているPg菌は胃酸で溶けることはなく、腸に到達し、腸内細菌のバランスを乱します。

そして、その後は腸内に定着することはなく、腸を通りすぎて出ていくと思われます。

 


まとめ


現在この考えは、まだ研究段階です。

しかし、口から腸まで繋がっている体の構造のことを考えると、「腸内細菌叢と歯周病の関係は全くない」とは言い切れません。

様々な病気を引き起こす歯周病。

治療、予防を行うことが健康でいることにつながります。

若いころから定期的に歯科医院にてしっかりと歯石や汚れを落とすことが、後々の健康へと繋がります。

若いから、と油断せず、まずは歯科医院にて現在のお口の状況を知るところから始めてみるのはいかがでしょう?