持病と薬と歯科治療についてのお話も今回が最終回となります。
最終回の今回は「ステロイド製剤を長期服用されている方」についてお話したいと思います。
(1回目:「高血圧について」 2回目:「血栓症について」 3回目:「糖尿病について」)
ステロイド製剤とは
ステロイドとは、副腎と呼ばれる臓器で作られる「副腎皮質ホルモン」の1種です。
このステロイドには体の中の炎症を抑えたり、免疫反応を抑える働きがあります。
このステロイドの作用を薬として応用したものがステロイド製剤となります。
〇働き
- ・抗炎症作用
炎症を起こす物質をブロックして炎症を拡大させる白血球の働きを抑えます。
- ・免疫抑制作用
免疫にかかわるリンパ球の働きを抑え、リンパ球が作り出す抗体の量を減少させる働きがあります。
〇副作用
- ・易感染性
免疫力が低下するため、感染症にかかりやすくなります。
- ・糖尿病・高脂血症・高血圧
血糖をあげたり、動脈硬化を促進してしまいます。
- ・消化性潰瘍
胃や十二指腸に潰瘍ができやすくなります。
- ・骨粗しょう症
- ・満月様願望
脂肪の代謝障害により、顔に脂肪が沈着し満月のように丸くなります。
- ・精神症状
不眠症やうつ病になることがあります。
- ・その他
白内障や緑内障など様々な副作用があります。
これらの副作用は患者さんの全てにみられるわけではなく、疾患、内服量、内服期間などにより様々です。
副作用の状態によっては副作用に対するお薬を飲むこともあります。
治療でステロイド製剤を使用する病気
ステロイド製剤は気管支喘息や悪性リンパ腫、ネフローゼ症候群など様々な疾患で使用されます。
自己免疫疾患の治療にも使用されます。
(自己免疫疾患とは、本来は身体を守るために細菌などの異物に対して働くはずの免疫が、自分自身の正常な細胞に過剰に反応し異常をきたす疾患の総称です。)
たとえば、関節リウマチとは免疫の異常により関節に炎症が起きて痛みや腫れがある疾患ですが、ステロイド製剤を使用すると過剰な免疫反応と炎症を抑え、痛みや腫れを緩和することができます。
ステロイド製剤と歯科治療
- ・細菌に感染しやすくなる
「炎症」とは体内に入った細菌と免疫細胞が戦い、細菌の数を減らしているサインです。
ステロイド製剤は炎症や免疫反応をおきにくくするため、細菌が増えやすくなります。
そのため、細菌感染が起こりやすくなります。
抜歯などの外科処置後の傷も治りにくく、膿んだり、腫れたりしやすくなります。
- ・治療時のストレスによる体調不良
ステロイド製剤の長期服用は副腎皮質ホルモンの分泌を抑えます。
この副腎皮質ホルモンはストレスが体に与える影響を軽減する作用があります。
歯科治療に限らず医療行為は体にストレスを与えます。
つまり、抜歯やインプラントなどの治療時に大きなストレスがかかり、治療後に発熱や嘔吐、血圧の低下と体調の悪化が見られることがあります。
これらの症状を「副腎クリーゼ」と呼びます。
安全に歯科治療を行うために
- ・抗生剤をしっかり服用してください
最近感染を起こさないよう、抗生剤をしっかり飲むことが重要です。
外科処置を受けられるときには抗生剤を通常よりも多く飲んでいただいたり、事前に飲んでいただく(予防投与)こともあります。
- ・追加のステロイド製剤を服用していただくことがあります
ストレスによる体調悪化を防ぐために通常より多くステロイド製剤を多く飲んでいただく「ステロイドカバー」が必要になることがあります。
ステロイドカバーを行うかどうかは医科の先生が決めるため、主治医と連絡を取る必要があります。
お薬を飲まれている方は必ずお伝えください。
まとめ
4回に分けて持病とお薬と歯科治療についてお話しました。
めったにないこととはいえ命にかかわる場合もあります。
持病やお薬を飲まれている方は必ずお伝えいただきたいと思います。
お薬の名前やいつから飲み始めたのか、など忘れてしまったり、何種類も飲んでいると伝え忘れてしまうこともあるかと思います。
「お薬手帳」を活用してみてください。
安心安全に歯科治療を受けられるよう歯科医院にもご持参いただきたいと思います。
ご協力よろしくお願いいたします。